システィーナ礼拝堂とは
システィーナ礼拝堂は、バチカン市国内にある礼拝堂です
15世紀後半のローマ教皇「シクストゥス4世」の命で建造されたため、システィーナ礼拝堂と名付けられました
システィーナ礼拝堂の最大の見どころは、ミケランジェロの2作品
システィーナ礼拝堂天井画と壁画の「最後の審判」です
システィーナ礼拝堂天井画

「システィーナ礼拝堂天井画」は、ミケランジェロが、ローマ教皇ユリウス2世の命で描いた天井画
1508年から1512年にかけて制作されました
彫刻家であることを自負していたミケランジェロはユリウス2世の依頼を断ります
それもそのはず、当時のミケランジェロは、教皇ユリウス2世自身の霊廟(れいびょう)(=お墓)を制作中
システィーナ礼拝堂の天井画の制作に乗り気ではありませんでした
天井画の制作のために霊廟の作成は中断
結局、当初の計画より大幅に縮小された形となりました
完成した霊廟がこちら

いや、すごいんですけど。。。
当初の計画がどれほど壮大だったのか興味をそそられますね
システィーナ礼拝堂天井画に話を戻します
教皇ユリウス2世からの依頼は「空を背景にイエス・キリストの十二使徒を描く」ものでした
しかし、ミケランジェロは旧約聖書の創成期のエピソードと預言者を描きます
写真の左側が祭壇、右側が入口です
ミケランジェロは入り口側から祭壇側へ順番に描いていきました
フレスコ画が得意ではなかったミケランジェロですが、祭壇側に進むにつれどんどん上手くなっていきます
体の正面を祭壇側に向け見上げるときれいにみることができます
順番に何が描かれているのか見ていきましょう
創成期

旧約聖書の創成期から9つの物語が描かれています
①光と闇の分離
②太陽と月の創造
③地と水の分離
④アダムの創造
⑤エヴァの創造
⑥原罪と楽園の追放
⑦ノアの燔祭(はんさい)
⑧大洪水
⑨ノアの泥酔
ふーん・・・ピンとこないなって感じですよね。
日本人は旧約聖書なんて読んだこともないから理解できないのも当然
ということで旧約聖書の創成期のざっくりストーリー順に天井画を見ていきたいと思います
ちなみに、天井画は旧約聖書のストーリー順には描かれていないので順番は前後します
1日目:光と闇の分離
はじめに神は天と地を創造された
神は「光あれ」といった、すると光があった
神はその光を見て良しとされた
神はその光と闇とを分けられた

ピンクの服を着て、上を見上げているのが神です

わたし、神です!
白い光と黒い闇を分ける姿が描かれています
2日目:天と水の分離
水の間に大空があって、水と水を分けよ
神は大空を造って大空の下の水と大空の上の水とを分けられた
神は大空を天と名付けた
この部分は描かれていません
3日目:地と水の分離
「天の下の水は一か所の集まり、乾いた地が現れよ」そのようになった
神は乾いた地を陸と名付け、水の集まったところを海と名付けた


神が眼下に広がる水平線に手を広げ水と陸を分離しています
「地は青草と、種を持つ草と、種のある実を結ぶ果樹をはえさせよ」そのようになった


画面左側で神が植物を創造しています
右側は4日目のお話です
つぅーか、神っ!
腰巻がお尻に密着しすぎ!お尻 丸出しかと思ったやん
4日目:太陽と月の創造
「大空に光があって昼と夜とを分け、地を照らす光となれ」そのようになった
神は2つの大きな光を造り、大きい光に昼を、小さい光に夜をつかさどらせた


画面右側で神が右手で太陽(大きい光)を、左手で白い月(小さい光)を創造しています
(ごめん、やっぱり左側の神のお尻が気になる・・・)
5日目:魚と鳥の創造
「水は生き物の群れで満ち、鳥は地の上、天の大空を飛べ」
「生めよ、ふえよ、海の水に満ちよ、また鳥は地にふえよ」
この部分は描かれていません
6日目:地の獣と人の創造
神は地の獣を、家畜を、地に這う(はう)すべてのものを造られた
神は土から自分の形に人を創造された


システィーナ礼拝堂天井画の中でも一番有名な部分、人(アダム)の創造です
人は神の形と同じなんですねー
スティーブン・スピルバーグがインスパイアされてE.T.を作成したとも言われています
神の背後のマントは脳の形を描いたという説も
神は人を深く眠らせ、眠った時に、そのあばら骨の1つを取って女を造り、人のところへ連れてこられた
人とその妻とは、ふたりとも裸であったが、恥ずかしいとは思わなかった


アダムが深く眠っている傍らで神がエヴァに命を吹き込んでいます
7日目:休息
こうして天と地と、その万象(ばんしょう)とが完成した
神はすべての作業を終わって休まれた
これが週休一日制の始まりです
この部分も描かれていません
原罪と楽園の追放
神が造られた生き物のうちで、へびが最も狡猾であった
へびは女に言った「園の中央にある木の実を食べると、あなたがたの目が開け、神のように善悪を知るものとなります」
女はその実を取って食べ、夫にも与えたので、彼も食べた
自分たちが裸であることがわかったので、いちじくの葉を腰に巻いた
これを知った神は大激怒
神はへびに言われた「お前は腹で這い(はい)あるき、一生ちりを食べるであろう」
次に女に言われた「わたしはあなたの産みの苦しみを大いに増す」
更に人に言われた「あなたは一生、苦しんで地から食物を取る」
神は人をエデンの園から追い出し、エデンの園の東にケルビムと回る炎のつるぎとを置いて命の木の道を守らせた


木に巻き付いてエヴァに木の実を渡しているのがへび
へびが人の形をしているのは「お前は腹で這い(はい)あるき」と神に言われる前なので人の形としているからとか、悪魔がへびに化けているからと言われています
中央右側上空でアダムの首をチクチクしているのがケルビムです
ここから旧約聖書の話がすこし飛びます
カインとアベル(人類初の殺人)の話などがありますが省略します
そして話は箱舟で有名なノアの時代に
大洪水(ノアの箱舟)
ここからは話が長いので要約して解説します
時に世は神の前に乱れて、暴虐が地に満ちた
人々は悪いことばかりしていたわけですね
ただ、ノアだけは違った
そしてついに、神は決心します



すべての人を地とともに滅ぼそうと決心した
ノアは箱舟を造り、子と妻たちと箱舟にはいりなさい
神はノアに様々な動物の雄と雌を箱舟に入れ、生き残らせるように命じます
そして大雨を降らせて大洪水を発生させます


大洪水から逃げ惑う人々の姿が描かれています
中央には箱舟に乗ったノアの家族がいますね
大洪水の結果、箱舟に乗ったノア一家と動物以外はすべて滅びます
ノアの燔祭(はんさい)
洪水の水が引いた後にノアは神から箱舟を出るように言われます
ノアは主に祭壇を築いて、燔祭(はんさい)を祭壇の上にささげた


中央にノアがいて、手前では羊を生贄にしています
燔祭の香ばしいかおりをかいだ神は言います



もう二度と人の地を呪わない
もう二度とすべての生きたものを滅ぼさない
いや、一度だって、やめてよって感じですが・・・
ノアの泥酔
ノアの子らはセム、ハム、ヤペテであった。ハムはカナンの父である
さてノアは農夫となり、ぶどう畑をつくり始めたが
ノアはぶどう酒を飲んで酔い、天幕(天幕:雨風をしのぐテントのようなもの)の中で裸になっていた
ハムは父の裸を見て、外にいるふたりの兄弟に告げた
セムとヤペテは着物を取ってきて、後ろ向きに歩みよって、父の裸をおおい、顔をそむけて父の裸を見なかった


飲みすぎて中央で寝ているのがノア
手前で指さしているのがハムですね
この後のノアの仕打ちがヒドイ
ノアは言った「カナン(ハムの子)は呪われよ。しもべのしもべとなって、その兄弟たちに仕える」
「神はヤペテを偉大にし、セムの天幕に彼を住まわせる。カナンはそのしもべとなれ」
裸を見たハムではなく、その子供のカナンにハムの兄弟のしもべとなるように言います
えっ!?裸の父が風邪をひかないように兄弟に着物を持ってこさせたのに?
と思いましたが、どうやら違うらしい
どうやら父の裸から目をそむけなかったことが権力者に対する反逆にあたるらしいです
泥酔した父に対する行動で父への忠誠心が浮き彫りになったということです
ミケランジェロも教会(当時は絶対的な権力を持っていた)へ忠誠が大事ということで
ノアの泥酔のテーマを最後に選んだのかもしれませんね
以上で創成期の天井画はおしまい
次は預言者です
預言者と巫女


創成期の物語を囲むかたちで預言者7人と異教の5人の巫女が描かれています
①預言者ヨナ、②預言者エレミア、③ペルシアの巫女、④預言者エゼキエル、⑤エレトリアの巫女、⑥預言者ヨエル、⑦預言者ザカリア、⑧デルフォイの巫女、⑨預言者イザヤ、⑩クマエの巫女、⑪預言者ダニエル、⑫リビアの巫女
正直、全員誰?って感じですよね。。。
それぞれに物語があるのですが、ここでは1人だけ紹介します
祭壇(最後の審判)の上に堂々と鎮座する「預言者ヨナ」です
※魚が描かれていますがこの後のヨナの物語を読めば理由がわかります


預言者ヨナの扱いは別格です
なんなら「最後の審判」の中央に描かれているイエス・キリストよりも大きく描かれています


そしてヨナが見上げる先には


光と闇の分離をしている神がいます
他の預言者や巫女の上にも神はいますが、誰も神を見上げていません
なぜかヨナだけ超特別扱い
その謎を解き明かすために預言者ヨナの物語を確認します
預言者ヨナの物語
ある日、ヨナは神の言葉を聞きます
「大きな町ニネべに行って悔い改めよと伝えよ。彼らの悪事がわたしのところまで届いたのだ」
ニネべはヨナの住む北イスラエル王国の敵国、アッシリア帝国の首都です
いやいや、そんなの無理でしょ!異教徒だし!とヨナは思います
しかし、ヨナは神のお告げに従わず、逆方向のタルシシに逃れようと船に乗ります
神は大風を海の上に起こしたので、暴風が船を襲った
水夫たちは恐れおののき神に助けを求めます
そしてこの災いが誰のせいなのか知るためにくじ引きをします
船が沈没しそうな時にのんきにくじ引き?と思うのは現代の感覚です
当時は大事なことを「くじ引き」で決めるとされていました
くじ引きが神の意向を反映しているということのようです
くじはヨナに当たります
ヨナは神のお告げに背(そむ)いていることを自白します
「海を静めるにはあなたをどうしたらよいだろう」人々は言いました
ヨナは答えます「わたしを海に投げ入れなさい。そうしたら海は鎮まるでしょう」
人々はすぐにヨナを海に投げ入れませんでした
船を陸に戻そうとしましたが、ますます海が荒れて船を戻すことができません
ついに人々はヨナを海に投げ入れました
すると海の荒れが収まりました
神は大きな魚を準備していて、魚にヨナを飲ませた
ヨナは三日三晩その魚の腹の中にいた
魚の腹の中でヨナは反省し、神に謝り、忠誠を誓います
神は魚に命じて、ヨナを吐き出させます
その後、ヨナはニネベに行き、神のお告げを伝えたところ、ニネベの人々は神のお告げを受け入れ改心した
というお話
預言者ヨナの重要性
正直、え?って感じですよね
神のお告げに従わないで逃げるし、魚には飲まれるし
ただ調べてみると以下のような位置づけらしい
- ヨナは魚に飲まれて3日後に吐き出される。イエス・キリストも十字架にかけられてから3日後に復活した。ヨナはイエス・キリストの予兆である
- 神が初めてイスラエルの民以外を救ったエピソードであり、「全人類の神」を証明したエピソード
なるほどですね
イエス・キリストの上にヨナが描かれて、そのヨナが神を見つめることで、旧約聖書と新約聖書をつなぎ、
イエス・キリストと神をつないでいるということなのですねー
4つのエピソード(ペンデンティヴ)


四隅には旧約聖書のユダヤ人救済に関するエピソードが描かれています
①青銅の蛇
②ハマンの処刑
③ダビデとゴリアテ
④ユディトとホロフェルネス
ざっくりエピソードを確認します
青銅の蛇


「民数記」のエピソード
エジプトで奴隷として扱われていたイスラエルの民
モーセが海をパッカーンと割って道をつくり、エジプトから脱出した後の物語です
イスラエルの民が神に対して不平不満を言ったところ、神は毒蛇を空から降らせた
イスラエルの民のうち、多くのものが死んだ



文句いわれて腹立ったからやったった



いや、やめてよ神ぃー
何とかイスラエルの民を許してくれませんかねぇ



しゃーないなー。毒蛇を作って、竿の上にかけなさい
かまれたものがそれを仰ぎ見ると死なないよ
モーセは青銅で毒蛇を造り、竿の上にかけてかかげた
毒蛇にかまれた者は、その青銅の蛇を仰ぎ見て生き延びた
イスラエルの民が毒蛇に襲われて恐怖におののく姿がリアルに描かれています
ハマンの処刑


「エステル記」のエピソード
王の妃であるエステルがユダヤ人を救う物語です
ペルシアのアハシュエロス王の側近であるハマンは自分に敬意を払わないユダヤ人を滅ぼそうとします
王妃エステルがアハシュエロス王、ハマン、エステルの3人で宴の席を設けることを王に提案します
宴の席で王妃エステルが自分がユダヤ人であることを明かし、ハマンの企てを王に伝え助けを求めます
王はハマンの企てを知り、ハマンを処刑します
左奥では宴の席でハマンの陰謀を暴露している場面が描かれています(左からエステル、アハシュエロス王、ハマン)
中央で磔の刑にされているのがハマン、右側のベッドにいるのがアハシュエロス王です
ダビデとゴリアテ


サムエル記のエピソード
羊飼いのダビデが巨人ゴリアテを投石機で転倒させ、立ち上がろうとするゴリアテの首を斬る場面が描かれています
ダビデと言えば、ミケランジェロ作のダビデ像が有名ですね
左肩にかけているのは投石機です


ユディトとホロフェルネス


ユディト記のエピソード
ユディトの機転により一人でイスラエルの街を救う物語
アッシリア帝国の軍隊がイスラエルのベトリアという町を取り囲む
降伏しようとしたとき、ユディトが自分に任せるように言って立ち上がります
ある夜、ユディトは着飾って、敵軍に侍女とふたりで乗り込む
敵の総大将ホロフェルネスに取り入って酒を飲ませ、酔い潰したところで首を斬り落とします
町に戻ったユディトは袋から首を取り出し、声を張り上げた
「神は私たちの敵を滅ぼしてくださいました
私の容姿は敵を魅了し滅ぼしましたが、この身が汚され、辱められることはありませんでした」
画面右奥には首を斬られたホロフェルネス
手間に生首を担ぐ侍女とユディトが描かれています
いかがだったでしょうか?
システィーナ礼拝堂の天井画は描かれている物語が多く、長くなってしまいました
しかし、物語を理解して見るのと、何が描かれているか分からずに見るのでは全然違います
少しずつ絵画のテーマについて理解を深め、より鑑賞を楽しめるようになりたいと思います
参考文献 著作権
Michelangelo, CC BY-SA 3.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0, via Wikimedia Commons
Michelangelo, CC BY-SA 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0, via Wikimedia Commons
Westerdam, CC BY-SA 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0, via Wikimedia Commons
Rico Heil (User:Silmaril), CC BY-SA 3.0 http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/, via Wikimedia Commons